3.1918年のインフルエンザにおける経験則

l  これらの科学的事実は、じつは、経験則によっても裏打ちされています。1918年~1919年に発生したインフルエンザ(スペイン風邪)を調べた諸論文においては、学校・教会・劇場・舞踏会場等の閉鎖というロックダウン的な措置(Nonpharmaceutical InterventionsNPI)は、感染がピークになる時期を遅らせたり、ピークの低くすることはできたかもしれないが、最終的な死亡率などに影響を及ぼすことはなかったと結論付けています。

Ø  スペイン風邪を研究した論文「Public health interventions and epidemic intensity during the 1918 influenza pandemic」(The National Academy of Science of the USA【資料47】)は、「NPI実施の有無は、死亡率に大きな影響を与えなかった(the difference was smaller and less statiscally significant than that for peak death rates)」ことを認めています。

Ø  同じくスペイン風邪を研究した論文「Nonpharmaceutical Interventions Implemented by US Cities During the 1918-1919 Influenza Pandemic」(American Medical Association【資料48】)」は、「如何なる厳格なNPIも、感染を予防したり、感染者数を変化させることはなかった(the most rigorous nonpharmaceutical interventions are unlikely either to prevent a pandemic or change a population's underlying biological susceptibility to the pandemic virus)」と記しています。

l  ちなみに、米国の歴史学者であるアルフレッド・W・クロスビーは、名著として知られる「史上最悪のインフルエンザ」(America's forgotten pandemic : The Influenza of 1918, Epidemic and peace)の中で、「実際、閉鎖命令を『厳格に』適用した地域の患者発生率や死亡率は、そうでなかったところとくらべて特に低くもなく、それどころかむしろ高かった例もしばしばあった。しかしながら公衆衛生当局にしてみれば、何かしないではいられず、劇場や学校、玉突き場、そして教会にまで閉鎖命令が出された。1918年秋、どこにでも見られた風景だった」と書き、ロックダウンは当局者の自己満足に過ぎなかったことを指摘しています。

Ø  このように「ロックダウン的な措置」が感染拡大防止に効果的であったという事実を示す学術論文はほとんどありません。したがって、昨年と今年に発せられた日本における「緊急事態宣言」は、後世の歴史家から、「当局者の自己満足に過ぎなかった」と酷評される可能性はかなり高いと思われます。「飲食店=諸悪の根源」説などはもってのほかです。

【資料47The National Academy of Science of the USA2007.5.1
Public health interventions and epidemic intensity during the 1918 influenza pandemic
https://www.pnas.org/content/104/18/7582

【資料48American Medical Association2007.8.8
Nonpharmaceutical Interventions Implemented by US Cities During the 1918-1919 Influenza Pandemic
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/208354